デジタルの力で防災を進化させる「令和6年度岩手県避難者把握デジタル実証実験 」参加レポート

――「令和6年度岩手県避難者把握デジタル実証実験」について
岩手県では、大規模災害が発生した場合、避難所の受付業務や、自宅や車の中などの避難所外避難者の把握業務などを想定した実証実験が行われました。
LINE公式アカウントとLINE
Pay
公的個人認証サービスを活用する運営方法で、避難者はもちろん、少ない数で避難所運営を行う職員の負担を軽減する取り組みです。
実証実験は2回に分けて行われ、1回目は令和6年9月18日に沿岸部に位置する久慈市、2回目は11月10日に内陸の遠野市で実施しました。
今回は遠野市で行われた実証実験をLINE
Pay社員が見学してきました。
前回の記事はこちら▶避難上の受付は13秒で完了!LINEを活用した、岩手県避難者把握デジタル実証実験の事例
――遠野市で行われた実証実験の概要
今回の実証実験では、猛烈な雨により土砂災害や浸水被害が発生、避難指示が発令されたことを想定し、2つの検証を行っています。
①避難所受付
・自身の情報を登録すると発行されるQRコードでの受付
・情報登録が未済の避難者の受付
・紙の受付
・スマートフォン未所有者の口頭受付
②避難所外避難者の把握・支援
――参加者
遠野市総合福祉センターで開催され、避難者役に60人(住民19人、県立大学生8人、市職員33人)が集まりました。住民参加は60代~80代が多い印象でした。
――実際の様子をレポート
⓵避難所の受付
受付レーンは2つ設けていました。1つは避難者役の住民が事前にLINE公式アカウントにて避難者情報を登録、発行したQRコードで受付を行うもの、もう一方は従来型の紙の受付です。
今回は訓練ということもあり、参加者はどちらもスムーズに受付を行えていましたが、実際の災害時を想定すると、良い点とあわせて、いくつか課題もみえました。
良かったことはQRコード受付がスムーズに行えていたことです。事前登録済みの避難者は、QRコードを提示し、受付の職員はスマートフォンで読み取り受付が完了します。計測すると24秒/世帯
とかなりスムーズな受付でした。実際に受付を担当した職員からは「受付方法が簡単で、素早い対応ができる」と好評でした。
一方で、事前登録が未済の場合、課題は2つあると感じます。
1つは、情報登録に時間がかかることです。受付にはQRコードが掲示してあり、そちらを読み込み避難所のチェックインを済ませ、その後に避難者情報を入力してもらいます。項目が複雑で入力に時間がかかり、計測では約6分/世帯
かかっていました。
また、受付の時点で避難者の情報を確認することができません。福祉避難所への誘導など、適切な案内が難しいことが懸念として挙がっています。
今回の実証実験で、受付業務のデジタル化の利便性を実感する一方、実際の災害現場を想定すると、限られた人員で円滑に対応する訓練やシステムの改良が必要であることを認識しました。
⓶避難所外避難者の把握・支援
今回の実証実験では、避難所への避難者のチェックインに加え、道路が崩落し避難できないなど、避難所外の避難者の把握と支援も実施しました。住民の状況を包括的に把握し、誰一人取り残すことなく支援を目指すものです。
実証実験に参加した岩手県立大学の学生からは「使い慣れたLINEから状況や支援の報告ができ、操作も簡単であった。」「新たなアプリのダウンロードが不要で助かる。」との高評価でした。
一方で、一部の入力項目で操作に迷う場面があったことや、スマートフォン操作に不慣れな方や高齢者が利用できるか、という懸念の声も上がりました。「自分の祖父母が使いこなせるか心配」という具体的な意見もありました。
デジタル技術が避難者と職員どちらにとっても効率化になる一方で、システム設計や運用方法の再検討が必要だと感じます。
⓷その他(避難所設営・ボランティア受け入れ等)
デジタル技術を活用した実証実験だけでなく、避難所設営や負傷者への対応、ボランティア受け入れの導線確認など、実際の避難所運営に必要な訓練も行われました。
岩手県庁や防災関連機構の関係者などは、各機関が役割を分担しつつ情報を共有することで、円滑な避難所運営が実現できるかを検証しました。
また、実際に参加した住民が、段ボールベッドやシェルターテントを組み立てる体験もあり、住民一人ひとりが防災力を上げる訓練にもなりました。
――「令和6年度岩手県避難所運営デジタル化実証実験」を通して感じたこと
岩手県復興防災DX研究会での議論を通じ、多くの自治体が、東日本大震災から10年以上経過した現在も、避難所運営が紙ベースで管理されていることに課題を感じていることが明らかになりました。このような背景を踏まえ、避難所の運営にデジタル技術を導入する取り組みが進められています。
災害発生時、多くの人が持ち出すと考えられる「スマートフォン」と「財布」に着目し、スマートフォンユーザーのほとんどが利用しているLINEを活用することで、避難所運営の効率化と利便性向上を目指しました。
その一環として、本人情報の登録にLINE
Pay
公的個人認証サービスを導入したことで、住民は簡単に本人情報の登録ができ、運営側も効率的に避難者情報を管理できるというメリットがあります。
一方、今回の実証実験を通じて、避難所運営全体には、まだ多くの課題が残されていることも明らかになりました。特に、限られた人員の中での効率的な運営方法や、入力項目の見直しなど、実運用に向けたさらなる改善が求められています。また、スマートフォンを利用できない高齢者や特別な支援が必要な避難者への対応も今後の課題として浮き彫りになりました。
本実証実験は、デジタル技術が避難所運営においてどのように活用できるかを検証し、その可能性と課題を明らかにした重要な取り組みでした。次世代の災害対応体制の構築に向けた一歩として、今後も訓練や実証実験を重ね、多くの自治体で運用可能なシステムを目指した取り組みが進められることを期待しています。
――ありがとうございました
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